蝶のよう

おつきあいが始まる前のこと。

お互いが惹かれあっているのはわかっていて

その先を踏み出すことに

躊躇していた頃の話。


小さくて居心地の良いビストロに

連れていってもらった時の彼の言葉を

今も覚えている。


「これまで、こうさんが恋人の話を

するのを聞いてて、こうさんの恋人に

なる人たちは大変だな〜って

他人事のように思ってた。


いま、自分がその立場に置かれて

すごく戸惑ってる。」


「それって私が構ってちゃんって

ことですか?」

私はドキッとして尋ねた。


「構ってちゃんとかではないよ。

そうでなくて、こうさんは蝶みたいに、

ヒラヒラと簡単にどこかに

飛んでいっちゃいそうで…


不安なんだ。」


そんなことないですっ、と私はすぐに

彼の言葉を否定したけれど、

ちょっとした感動も覚えていた。


こんなに素敵でしっかりとした男の人が、

私なんかを相手に

不安な気持ちを隠すことなく

吐露してくれるなんて。


なんて真っ直ぐな方なんだろう。


それから…

違う違う、わかってちょうだい

という気持ちもあった。


どうして私が本気じゃないみたいに

思うのかしら。こんなに好きなのに。


どうしたら、軽い気持ちでなくて

心底惚れてしまっていること、

わかってもらえるのかな?と

何度も思った。


彼とおつき合いを始める前まで

私にはたまたま途切れなく恋人がいて。

彼には恋愛相談にも乗ってもらっていた。


彼は、もし私たちがおつき合いをはじめたら

独身の男の人を私がみつけたとき、

彼の元から去っていくだろうと

覚悟していたそう。


数年経った今はもう、彼は私の気持ちを

そんな風に思いはしていない。

蝶なんかじゃなかったでしょう?


先日、


「不思議だね。

こうして色んなことがあっても

お互い気持ちが変わらないって。」


と呟いた彼。


そうね。

だってあなたのことが大好きだもの。


これからも色々なことを一緒に乗り越えて

絆を固くしていく。